言祝ぎの子 伍 ー国立神役修詞高等学校ー


そこまではいい、問題は二人の体制だ。

すりおろしたリンゴが入った器とスプーンを持つ瑞祥さん、手に持つスプーンは聖仁にさんの口元に差し出されている。そして大人しく────というかむしろ嬉々として口を開けた聖仁さん。どこからどう見ても誰が見ても「あーん」の瞬間だ。

私たちを見て凍りついたように固まった瑞祥さんとは正反対に、「みんな久しぶり」と朗らかに笑った聖仁さんはお構いなしにスプーンをパクっとくわえる。


「えっと。元気そうでなに、よりッ……」


堪えきれなかったのか、いい切る前にブハッと吹き出した薫先生。


「お楽しみ中のところ悪いね」

「ホントですよ薫先生。もう少し気を遣ってください」

「昨日まで面会謝絶だった怪我人が、病室でイチャついてるとは思わないじゃん」


あはは、と笑いながら持ち込んだお菓子の袋をガサガサと広げ始める。他のみんなも「相変わらず仲良いなぁ」と笑って動き出した。


「わ……わた、私部屋戻るッ!」


耳まで真っ赤になった瑞祥さんがお皿とスプーンをテーブルに置いて勢いよく立ち上がった。今にも走り出しそうなその手を聖仁さんが掴む。

動かしたことで火傷の跡に響いたのか「いてて」と顔を顰めた。瑞祥さんは目を見開いて戻ってくると「動くな馬鹿!」と慌ててベッドに寝かせる。