言祝ぎの子 伍 ー国立神役修詞高等学校ー


今回は事情が事情なだけにお説教を喰らうことはなかったけれど、薫先生は私たちの無事を喜んだあと諦めたような顔で天を仰いでいた。

叱る相手がいない偉い人達は「監督不行届」という理由で薫先生を叱るしかないらしい。責任の所在がはっきりしないと一件落着できないなんて、大人ってちょっと変だと思う。

申し訳ないけれどこればかりは私達ではどうすることも出来ないので、みんなでお金を出し合って薫先生の好物である金平糖を献上したら薫先生は笑っていた。


噂好きの学生たちによって、今回の騒動も瞬く間に広まっていった。人から人へ伝えられる度に誇張され、今や英雄の偉業のように語られているらしい。

そのおかげか奉納祭前みたいに陰口を言われることはなくなったけれど、反対に陰口を言っていた事への申し訳なさなのかすれ違う度に気まずい顔をされることが増えた。それはそれで私も気まずい。


「巫寿ちゃん、一時間目漢方薬学だから移動教室だよ」


用意を整えた皆がドアの前で私を待っている。


「あ、うん! 今行く」


教科書とノートをまとめてバタバタと立ち上がった。