呪詞は相手に苦しみをもたらす。
瓏くんが今どんな苦痛の中にいるのかは想像しなくてもわかる。それに辛いのはきっと信乃くんも同じだ。
でも今手を止めればもっと大変なことになる。瓏くんもそれは望んでいないはずだ。
背中を横切る一文字の傷跡に文字が刻まれていく。泣きたくなるような悲鳴が響き渡る。
頑張れ、堪えろ、皆が必死に声をかけた。私も祝詞を奏上しながら心の中で強く祈る。
「大丈夫や瓏ッ! 俺は絶対にお前を助ける!」
信乃くんが奥歯を噛み締め、手のひらを強くその背中に押し当てた。紫暗の煙がいっそう強く立ち上る。
瓏くんが激しく泣き叫んだ。怪し火がみんなに襲いかかる。
「そう約束したからな……ッ!」
次の瞬間、背中に刻まれた文字が黒く光った。光った文字は背中に吸い込まれるように溶け込んでいくと、刺青のように肌に定着する。
瓏くんの背中の上にうつ伏せで倒れ込んだ信乃くんに皆が目を見開いた。
「おい信乃大丈夫か!」
「信乃どうした!?」
「死んだのか!?」
気だるげに右手を持ち上げた信乃くんはその手をひらひらさせると、そのまま瓏くんの隣にごろんと転がり落ちる。
「誰やねんいま死んだのか言うたやつ。生きとるわボケ」
青い顔でふーっと息を吐いた信乃くんはそう軽口を叩いた。



