「シャァッ作戦通り! いまから呪印刻むぞ、絶対暴れよるからしっかり抑えとけッ!」
「いいからさっさとやれ関西弁!」
暴れる足を抑えながら恵衣くんが眉を釣りあげた。
瓏くんが胸の前で手を合わせた。口の中で何かを唱えたあと瓏くんの背中に手を乗せる。乗せた瞬間手のひらと背中の間から黒い煙が立ち上り、皮膚を焼くような嫌な音が聞こえた。
耳をつんざくような瓏くんの悲鳴が辺り一面に響いた。
激しく暴れる瓏くんの九尾がみんなに向かって振り下ろされる。尻尾の先に宿った怪し火は容赦なく皆を攻撃する。
「離しちゃ駄目だよ皆ッ! 離したらもれなく全員丸焦げだ!」
「もう十分焦げてるよ!」
「うるさい馬鹿なのかお前ら!?」
「恵衣が一番うるせぇ!」
瓏くんが激しく身をよじった。うわぁッ、とみんなが悲鳴をあげる。
鎮火祝詞を奏上する声に力が入る。リズムが乱れて言祝ぎが揺らいだ。怪し火の勢いが増す。焦りが声に現れたその時、瑞祥さんが私の肩に手を置いた。
ハット顔を上げると力強い目で私を見下ろす。「落ち着け、大丈夫」そう言っているようだった。奏上の合間に深く息を吸う。おかげで自分のリズムを取り戻した。
信乃くんが奏上しているのは言わば呪詞、祝詞とは反対の効果をもたらす他者を呪う詞だ。



