嘉正くんが焦りの滲んだ表情で何かに向かって走っていく。
作戦は一旦中止だ、瓏を持ち上げろ!恵衣くんがそう叫んだことで皆は風神祝詞を再開する。
地面に横たわる黒い影見える。風に煽られて焦げた何かがパタパタとはためく。僅かに色の残った部分から鮮やかな紫色が見えた。
今いるメンバーの中で色付きの袴を履いているのは五人、そのうち紫色の袴を許されているのは一人しかいない。
「聖仁……ッ!」
悲痛な叫びは森中に響き渡った。
転がるように側へ駆け寄った瑞祥さんがその黒い影を抱き起こす。うつ伏せになっていたらしく、辛うじて肌色が残った顔がだらんと力なく垂れる。
意識のない生気のない横顔に息が止まった。
「聖仁……ッ! お前なんでこんな、馬鹿野郎! しっかりしろ聖仁!」
震える声で名前を呼んだ。必死に頬を叩く姿が私の見た未来と重なる。
「なんで、なんで私に結界を張ったんだよッ! 自分のことくらい自分でなんとかするって、前から言ってんだろ! なんでッ……」
その言葉から、あの瞬間聖仁さんは咄嗟に瑞祥さんの周りに結界を貼ったんだと分かった。
聖仁さんが守ったんだ。
後悔と困惑と焦りで酷く顔をゆがめた瑞祥さんが何度も何度も名前を呼ぶ。
かすかに呻き声がして瞼が震えた。途端その顔は苦痛に歪む。



