この部屋、多分志ようさんの部屋だ。

押し入れを開けて布団を押し込めば、乾いた埃の匂いとともにほのかに梅の花の匂いがした。

花の匂い、優しい匂い。覚えている気がする。これは志ようさんの匂いだ。

ここは彼女の部屋だったんだ。


「巫寿さま、お目覚めですか」


障子に人影が写った。よく知る声に「うん、起きてるよ」と返す。

返して首を捻った。数秒固まり、目を見開く。ドタドタと部屋を横切ると勢いよく障子を開いた。

燃えるような目が私を見上げた。


「眞奉……!?」

「はい。長い間御前を離れてしまい申し訳ございません」


いつも通りの淡々とした物言いに、何を考えているのか分からない無表情。

その声を聞いたのも顔を見たのも随分と久しぶりな気がする。それもそうだ。だって一学期に私がああなってから、眞奉はずっと私から離れざるを得なかった。


「まずはお召かえを。その次にお食事を。居間で禄輪がお待ちです」

「ま、待って待って。いつ戻ったの? ていうか、禄輪さんから降神(こうじん)祝詞を奏上しないと十二神使は呼び出せないって」

「基本はそうですが、私はずっと御前に戻れる機会を探っておりました。ですので呼び出されるまでもなく、巫寿さまが幸魂修行を始められて直ぐにこちらへ向かっておりました」


そんなことよりとでも言いたげな顔で「お着替えを」と来る時に着てきた私服を桐箱に入れて差し出した。