「よぉ瓏」
「信乃? 帰ってたの」
酔っ払ったオヤジを布団に押し込んだ後、その足で離れまでやってきた。
瓏の部屋に顔を出すと、ちょうど今日の分の報告書をまとめていたらしい。肩越しに覗き込むと相変わらずミミズみたいな文字で読めたものじゃない。
「緊急会議で帰ってきてた。宮司が替わるから一週間くらいはこっちにおる」
先程余った甘酒の瓶を瓏に投げて寄こした。
押し入れから座布団を引っ張り出してきて適当に放り投る。
「信乃……宮司じゃなくなるの?」
「しばらくの間やけどな。その間はオヤジが宮司代やることになった」
二つ折りにした座布団を枕替わりにして寝転ぶ。天井を見上げてひとつ息を吐くと、瓏が俺の顔を覗き込んだ。
「大丈夫?」
表情が乏しいこいつが、僅かに眉根を寄せている。不安げなその表情に俺のことを心配しているのだと分かる。
「おう。別に宮司を外された訳じゃないし、むしろ修行に専念できる。肩の荷も降りてスッキリ爽快や」
ちゃんと俺の本心だと判断したらしい。そっか、と表情を緩めた。
報告書に向き直った瓏がするすると筆を滑らす音が聞こえる。天井のしみをじっと見つめた。
相変わらずものの少ない寂しい部屋だ。ここへ来る道中も誰かにすれ違うどころか、最近誰かがここへ訪れた気配すらなかった。