「おお信乃! 来るのが遅いねん!」
その日の夜、残された仕事や当主交替の手続きに終われやっと一息つけるというタイミングで、「酒に付き合え」とオヤジに呼び出された。
げ、とも思ったが丁度俺からも話があったのでしぶしぶオヤジの部屋へ向かう。
顔を出せばこの通りもう既に出来上がっており、俺の代わりに付き合わされていたらしい権宮司が「ああ良かった、まだ僕は仕事があるんです。あとは頼みましたよ信乃さん」と俺の肩を叩いた。
ため息をつきながら親父の向かいに座る。酒はまだ飲めないので、厨から盗んできた甘酒を開けた。
「こんな真夜中から酒なんか飲みよって」
「うるさいやっちゃなぁ、たまにはええやろ」
「へぇへぇ」
この上なく上機嫌なオヤジに「めんどくせぇ」と心の中で天を仰いだ。
オヤジは特に何かを話すわけでものなく月を見上げて、社頭から聞こえてくる里のものたちの話し声に耳を済ませている。
その顔は穏やかで優しい。
「お前、オヤジに向かってなかなかの暴言吐きよったな」
唐突にそう言ったオヤジにごほっとむせる。
胸を叩きながら「あれは!」と声を上げた。
「あれはオヤジがウジウジしてたんが悪いんやろ! ああでも言わんとずっと変わらんかったやろが!」
「まぁその通りやな」
徳利をあおったオヤジが目を閉じた。
神楽殿から越天楽の音色が風に乗って届く。