「神託に従って俺は本日付で頭領を退く。空いた宮司の席には宮司代が就く。もう選ばれとるから、後のことは宮司代に任せるわ」

「それは一体────まさか……!」


神職たちの視線はオヤジに集められた。


「御祭神さまの神託により、十二代目宮司代にそこにおる信田妻狐の妖、気狐の信貫(しかん)を据える」


今日一のどよめきが起きて皆が息を飲んだ。

未だ視線を逸らして口を噤むオヤジに息を吐く。


「おいオヤジ。いつまでガキみたいに拗ねとんねん」

「……俺は自分から宮司を退いた身やぞ。身内から野狐まででて、他の神職たちに示しがつかん」


相変わらずの頑固っぷりに頭が痛くなる。


「いい加減にせぇ。これは神託であって、誰にも覆されへん。はよ腹括らんかい。信頼を失うも得るも、自分次第やろ」


信頼を失うのは一瞬だった。そしてそれを取り戻すのがどれだけ大変なのかは身をもって学んだ。

この数年間、苦しくて悔しくて仕方ないことだらけだった。けれど何一つ無駄じゃなかったことはこの俺が一番知っている。


この数年間、オヤジの背中を遠くから見ていた。

俺にアドバイスなんてひとつもくれなかったのに、権宮司とは頻繁に話していたのを知っている。瓏に稽古をつけたのもオヤジだ。

毎日困り事がないか里を歩き回っているのを知っている。俺の手が届かない場所で、皆を助けてくれていた。