普段はあまり変わらない表情が、驚きと喜びに染る。
「ろう……瓏」
「分かりやすくてええんちゃう? 俺もシノで二音やし」
うん、と頷いたそいつ────瓏は大切そうに文字をなぞる。
「名前、短い呪。意味あるんでしょ」
「あー……まぁ大体の奴はあるわな」
「瓏は、どういう意味?」
珍しく瞳を輝かせた瓏はぐいぐいと身を乗り出して俺に詰め寄る。
近いわ、と額を弾いた。
なぜか意味を説明するのが小っ恥ずかしくて「自分で調べぇ」と背を向ける。
どうやって調べる?
自分で考えろ。
分かった。
くそ真面目に頷いた瓏は書き損じを引き寄せた。
「これ貰っていい?」
「書き損じやでそれ。やったら新しい紙に書き直したるわ」
「これがいい」
大切そうに折り畳んで懐にしまった瓏は平家物語の朗読を再開した。
文机に頬杖をついてその様子を眺める。
まぁ……ポン太に比べたらなかなかええセンスなんちゃう?
瓏の僅かに上がった口角を眺めながら、自分の頬も緩むのを感じた。