そいつは経験のない俺の代わりに前線へ立つようになった。そのおかげで俺は社の中での奉仕に集中出来るようになった。
「信乃、祓除終わった」
「おうお疲れさん。こっちも今終わった。飯行こ」
実戦で足りない知識は、そいつが補ってくれるようになった。
「牛鬼の祓除なら、二級の神職が五人は必要だと思う」
「ほんなら禰宜五人派遣するから、お前は後ろから援助してくれ」
相変わらず言葉は下手くそなので、俺が合間を縫って教えた。
「ねぇ信乃。この間教えてくれた、友達への挨拶。里の子に試したら、泣いて逃げられた」
「俺そんなん教えたっけ?」
「教えた。"こんちくびーむ うっほほーいうっほほーい!"」
「お……おま、ガチでそれやったん……?」
里の厄介者と信頼されていない頭領。
欠けているもの同士が欠けている所を補い合って過ごす日々は案外悪くなくて、むしろ居心地のよさを感じる。俺はそんな毎日をいつしか楽しんでいた。
俺たちは多くは語らなかったけれど、根っこにあった信頼が二人の関係を強くしたのだと思う。
「なぁ……瓏とかどうや?」
桃太郎から平家物語を読めるまでに成長したそいつは、本から顔を上げて目を瞬かせた。
筆を取って書き損じの裏にするすると書いてみせる。隣にすり寄ってきたそいつの顔に押し付けた。
「瓏……って読むの」
「おう」
「何が、瓏がいいの」
「名前。お前の」