目一杯に涙を貯めて唇をすぼめるその子供は、何かを恐れるように身を縮めて震えている。

抱き上げていた子供らを下ろして、その子の頭に手を置いた。


「泣きべそかいて、どないした」


涙が睫毛を超えた。はたはたと雫が地面に落ちる。流れる涙をそのままに子供は着物の袖を捲った。

か細い二の腕に広がる黄色い痣。治りかけているようだけれど、酷い痣だったことがみてとれる。転んだりぶつけた程度じゃ出来ないような跡だった。


「これ……伊也ねぇか? まさか、あいつもなんか」

「あの兄ちゃんは悪ないんや……ッ」


しゃくりを上げながら鼻声で、必死に俺にそう伝える。


「オトンたちは悪い噂ばっかり話してたけど、あの兄ちゃんはそんな奴とちゃう!」


子供のいう"あの兄ちゃん"が誰なのかすぐに結びついた。眉根を寄せて子供の話に耳を傾ける。


「俺が、伊也ねぇに酷いことされてる時、あの兄ちゃんが助けてくれた。したら、伊也ねぇが"お前が代わりになるか"って言うて」

「私の時もそやった……!」

「あの兄ちゃんがうちの代わりに叩かれてッ」

「伊也ねぇが、人に喋ったらどうなるか分かってるやろなって……」


子供らは火がついたように泣き出した。自分にしがみつく子供らを戸惑いながら抱きしめる。


「うち、あの兄ちゃんのこと、信乃にぃと同じくらい好きや……!」


その言葉が決め手だった。