胸ぐらを勢いよく離した。そいつは尻もちをついて畳の上に座り込む。その瞳に自分を映されるのが嫌ですぐに背を向けた。
「お前、うちの里から追い出されるかもしらんのやぞ。それでも弁解せんか」
返ってきたのは頑なな返事だった。
もうこれ以上こいつに構う義理もない。元はと言えばオヤジが連れてきた赤の他人なのだから。
「……勝手にせぇ」
「信乃」
部屋を出ようとした直前に背後から名前を呼ばれた。背を向けたまま足だけ止める。
「信乃、大丈夫?」
カッと目の奥が熱くなって、奥歯を噛み締めた。
なんで。俺はあんなに呪を込めた声でこいつを問いつめたのに。しまいには見放して、どうにでもなれとまで思ったのに。
なんでこいつはそんなに暖かい声で、俺の名前を呼ぶんや。
腹が立つのは心に広がる虚しさがそうさせているみたいだった。