俺と視線が合えば、ほんの少し目を細めた。
「信乃」
親しみの籠った声色に苛立ちさえ覚える。
自分の感情をコントロール出来ない。疲れた、眠りたい、何もかも投げ出したい。
大股で歩み寄る。伸ばした手はそいつの襟元を掴んだ。
「お前、里の子供に怪我させたんか」
そいつは何も言わずに俺をじっと見ている。
「伊也とつるんで何か企んどったんか。お前のこと助け出した信田妻の恩を仇で返すんか。なんで黙っとるんや答えろよッ!!」
俺を見上げる目が、俺を責めているように思えて唇を噛んだ。
それを振り払うように勢いよく胸ぐらを揺する。少しも抵抗しようとしないそいつに苦り切った。
「言えない」
そいつはぽつりとそう呟いた。
「言えんちゅうんはやましいことがあるって言うてんのと同じなんやぞ!?」
「でも、言えない」
「言えッ! 頭領命令や言えッ!」
「言えない」
この……ッ!と言葉を詰まらせたと同時に自分が拳を振り上げていたのに気付いた。そいつは眉を寄せて身を固める。
振り上げた拳は宙で止まった。やり切れない怒りが拳の中でぶるぶると震える。
「クソったれ……ッ!」
そう吐いた言葉はそいつにも自分にも当てはまった。