「それに……噂程度の話なのですが」


言いづらそうに目を逸らして口篭る権宮司に「何や、はっきり言え」と息を吐く。


「伊也が野狐落ちする直前まで、伊也と例の千歳狐がよく一緒にいるところを見かけたとか」

「……は?」

「二人が歩いていった方角から怪我をした子供が帰ってきた、とも。あくまで噂ですが」


キン、と耳鳴りがした。頭の奥がじんわりと鈍く痛い。胸がスっと冷える感覚がする。

ダンッと激しい音がして、傍にあった湯のみが倒れたのと、右拳がじんわりと鈍い痛みを発したことで自分が机を殴ったことに気付いた。

無言で立ち上がれば権宮司が焦ったように腰を浮かせた。


「あいつは今どこや」

「どうなさるつもりですか……!」

「噂かホンマか、俺が判断する」


俺の腕を掴む権宮司の手を振り払った。