いくつかの部屋を通り過ぎ、障子が僅かに相手いる部屋に差し掛かった。

隙間から覗き込む。お母さんの顔が見えた。お母さんに抱きついている女の人がいる。橙色の着物を着ている。あれが"しようちゃん"だ。


────泉ちゃん。ごめんなさい。ごめんなさい、私はどうしたら。


泣いている。"しようちゃん"が泣いている。

大人の人が泣いているのは初めて見たからか、驚いてその場に棒立ちになってしまった。


────志よう、私を見て。大丈夫だから私に話して。

────私を嫌いにならないで。どうか私を許して。


お母さんも泣いている。"しようちゃん"も泣いている。大好きな二人が泣いていることがすごくショックで悲しかった。


────私が名前を付けたから。私があの子に名前なんて付けたから、あの子を縛ってしまったッ……。

────志よう、どういうこと? もしかして先見の明で何か見たの?

────こんなことになるなんて微塵も思ってなかったの……! ああ、どうしたらいい? 私は何てことを。泉ちゃんたちの大切な、私たちの大切な希望を。


手を繋いでいたお兄さんが私の手を解いた。

その感覚に顔を上げると、お兄さんは振り返ることなくすたすたと歩いていく。廊下が軋んで二人がはっと振り返った。