オヤジが年末年始で五徹した際に禰宜が処方した漢方薬、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)と目薬が俺の横に常備されるようになった。齢十でこの有り様だ。なかなか笑える。

鬼市と明け方まで桃鉄をした時の疲労感とは比べ物にもならない。


そして俺があの千歳狐の存在を思い出したのは、あれから二週間ほど経った頃だった。

上がってきた報告書に目を通して判を押していると、担当者名が空欄の報告書をいくつか見かけた。


「権宮司、これ名前抜けとる。出し直せ言うてきて。あと字汚い読めん」


ミミズ文字に眉をひそめて隣に控えていた権宮司に突き返す。目頭を押えて天を仰いだ。

権宮司はざっと目を通して「ああ」と呟いた。


「これは例の少年が担当したんです。名がないので空欄で」


例の少年? 名がない?

眉をひそめて、すぐに離れにいる千歳狐のことを思い出した。


「先代が何か役割を与えてやろうと、信乃さんの夏休みが明けたころから任務につかせているんです」


あいつが?と権宮司を疑った。

日本語もろくに喋れなかったあいつが任務?

本当にちゃんとできるのか。


「最初の一ヶ月は他の神職も同行させましたけど、問題を起こすことも無くやっているようです。ひと月前からは一人で行かせて報告書を書かせていて」


里の子供らが書いたような字の報告書に目を通す。

ひがいなし、ふつじょずみ。

端的すぎるが本当に問題なくやっているようだ。


「一段落したら千歳狐の処遇についても見直しが必要かと。里の者たちは彼をここに置いておくことに不安と不満を感じているようです」


深い息を吐いて天井を仰いだ。

問題が次から次へと出てくる。

ひと月休んだ後は神修に帰って、土日でまた里に戻り宮司の仕事をこなそうと思っていたが、上手く回るのだろうか。