学校にはひと月ほど休む連絡を入れた。

担任に連絡した時にちょうど職員室にいたクラスメイトの鬼市が電話を代わった。

普段からちょっと抜けているあいつは俺の事情なんてお構い無しに「今日の夕飯はおはぎが出るらしい」と言った。今日一日で唯一心が休まった瞬間だった。


連日神事が続いた。宮司が代替わりするだけでこんなにも色んな神事があるのかと辟易したけれど、それに加えて宮司としての職務も始まる。

ある程度はオヤジに習っていたことと、権宮司もかなり補ってくれたこともあってなんとかやって行けそうだ。

もともと俺が頭領になるのは百歳を過ぎて気狐(きこ)になってからの予定だった。それがたったの齢十で代替わりしたことで、神職たちの間には不安が広がっていた。それ以前に身内から野狐が出たことで不信感が強まっていたのも相まって、里には俺を憐れむものか嫌うものしかいなくなった。

権宮司が"憐れむ方"だったのが不幸中の幸いだろう。


里の子供らや友人たちは、親に言われたのか俺とは口を聞かないようにしている。

昔、俺と同い歳の妖狐の叔父が野狐落ちして、そいつも俺と同じような扱いを受けていたのを思い出した。

その一家は一年も経たずに里を出て行った。それからどうなったのかは誰も知らない。