そいつの名前が決まるよりも先に、俺の夏休みが終わった。

言葉の勉強は権禰宜に任せたし、友人たちにもわざわざ仲良くする必要はないが少し気にかけてやってくれと頼んである。

里の中であいつをよく思う奴はいない。野狐討伐の際に死者はでなかったもののあいつのせいで怪我をおった神職は沢山いるからだ。

周りはそんな調子だしこいつも類を見ないインドア派なこともあり、結局俺以外の妖狐とはろくに口を聞いていない。「まぁ仲良くやるんやで」とだけ言っておいた。

友達の手配をしてやるほどの義理もないし、なんなら俺よりも150歳は歳上なのであとは勝手に自分でなんとかするだろう。


学校があるから冬までは帰ってこないと伝えると、分かったのか分かっていないのかよく分からない顔でひとつ頷いた。


そうして友人や里の妖狐達に見送られて神修に帰った俺は、あいつに伝えたよりも少し早く里に戻ることになった。色付いた紅葉が散り始めた十一月の終わりの事だ。

普段ウザったいくらい長い連絡をよこすお袋から、至急里へ帰ってくるようとだけ端的な連絡が学校へあった。


訳が分からないままとりあえずいちばん早い車に乗り込んで、里へ着いたのはその日の夕方頃だった。数ヶ月前と変わらない長閑な景色が広がっていた。


通りを歩いて実家を目ざしていたが、やけに静まり返っているのに気が付いた。普段ならこの時間帯は仕事へ出かけたり遊びに出かける子供らで賑やかなはずなのに。