「堪忍、伊也(いなり)ねぇ」


友人たちには何も喋るなと目で制し自分が前に出る。伊也ねぇは不機嫌な顔のまま俺を睨んだ。


「夏休みだか何だか知らんけど次期頭領がそないに遊び回ってて、信田妻一族の行く末が不安やわ。まぁうちには関係ない話やけどな」

「勉強は真面目にやっとる。でも息抜きも大事やて先生も言うとるし」

「子供が息抜きて、何偉そうに。行くならはよ行き。うちの前から消えて」


完全に怯えて固まってしまった子供らの背を押した。足がもつれたのか一人がつんのめってびたんと倒れ込む。

その拍子に伊也の裾に手が触れたらしく、眉がつり上がった。


「そんな汚い手で触らんといてッ!」


ヒッと息を飲んだ子供が咄嗟に身を守るように体を縮める。咄嗟に間に入った。


「俺がよう聞かせるから」


伊也ねぇの目をじっと見つめて静かにそう言う。

舌打ちをした伊也ねぇは足早にその場を離れていった。

背中が見えなくなって、転んだまま泣きべそをかく子供を抱き起こす。自分の首に抱きついてきたその子の背を優しく叩いた。


「大丈夫か?」

「伊也ねぇにまた怒られるッ……」


怯えたようにそう言った子供に眉根を寄せた。