「信乃、とれたやつ唐揚げにしてや!」
「嫌や信乃にぃ! 唐揚げじゃなくて佃煮がいい!」
「うち、この前のカニクリームパスタがええわぁ」
「パスタなんて邪道や邪道!」
ぎゃあぎゃあと言い争いを始める姿を笑いながら見守る。
前に取れたサワガニで料理を振舞ったのがなかなか好評だったらしく、川遊びをする度に「またあれ作って」とねだられる。
何だかんだで子供らに慕われているのは満更でもない。
前を歩く子供を持ち上げて肩に乗せた。楽しそうな声が頭上から聞こえる。周りからずるーい、と不満の声が上がったので逃げるように走り出した。
廊下を走っていると、奥の角から誰かが曲がって来るのが見えてスピードを緩めた。
藍色の和服を着た女だ。俺と同じ黄みがかった波打つ茶髪を煩わしそうに耳にかけた。
赤い瞳が俺たちを見付けた。一瞬鋭い視線を感じ、肩の上に乗せた子供が怖がるように俺の頭を抱きしめる。
追いついた友人たちは「ゲッ」と露骨に顔を顰め、子供らは我先にと俺の背中に隠れる。
友人らのそんな様子に眉をひそめたその人は不機嫌な顔で俺を睨んだ。
「昼間っからうるさぁて適わんわ。我が家はいつから猿山になったんや?」
嫌味ったらしい口調に友人らがムッとしたのが分かった。