────わ、ビックリした。どこの子? どうやって入ってきたの? 駄目だよ、御神木さまに登っちゃ。ほら降りておいで。


はっきりとは覚えていないけれど、その日私はとても退屈で木登りをしていた。

一番太くて真っ赤な紅葉が綺麗だった立派な木に登っていると、急に下からそう声をかけられて脇に手が差し込まれた。

ふわりと体が浮いて両手が木から離れた。ビックリして体をよじるとすぐにとんと両足が地面につく。


────君お名前は? いくつ? お父さんかお母さんは近くにいる?

しいなみこと、みっつ……おかあさんときたの。


そう答えるとぐりぐりと頭を撫でられて、その人は私の手を取って歩き出した。

顔は思い出せない。けれど背の高い男の人だった。声が低かったからそうだと思った。優しい声だった。その人は白い着物に緑の袴を履いていた。


何かを話た気がする。確か私が、「どうしてみどりいろなの?」と袴の色がお父さんとは違うことを尋ねた。

お兄さんはくすくす笑って「まだガクセイだからだよ」と言った気がする。

その時はガクセイがなんなのか分からなかったけれど、あのお兄さんは学生だったのか。


私はお兄さんに手を引かれてキシキシ音が鳴る廊下を歩いた。


────お母さんは宮さまに会いに来たの?

みやさまってだれ?

────審神者さまだよ。

おかあさんは"しようちゃん"にあいにきたんだよ。