「信乃にぃ何してんの?」
「おい信乃! 最近付き合い悪いぞ!」
昼過ぎに自室に籠って信田妻一族の名簿を眺めていると、挨拶もなしに里の子供らや友人たちが部屋へ押しかけてきた。
チビ共は我先にと俺の膝を陣取り、友人たちは背にのしかかってくる。
「お前らなぁ、自分ん家ちゃうんやからもうちょっと気ぃ遣えや」
呆れつつも自分の尾っぽにじゃれつく子供らの相手をする。
友人たちが俺の手元を覗いた。
「名簿なんか見て何しよるん」
「あー、ちょっとな。名前の候補を探しとるんや」
「は!? 信乃子供産まれんの!? 誰孕ませたん!?」
「ちゃうわボケ!」
間髪入れずに手刀を落とす。
なになに?と興味深げに俺が考えた名前候補の紙を覗き込み、十分の三読み上げると額を押えて黙り込んだ。
「やめとけ信乃。産まれてくる子が可哀想や」
「ポン太って誰〜?」
励ますように肩を叩かれた。イラッとしたので無言で紙を破る。
自分のセンスが壊滅的なことくらい分かっとるわ。
アホらし、なにやってんねんやろ。
「お前ら、サワガニとりに行こか」
「マジ!? 行く行く!」
「わーい!」
重い腰を持ち上げて、みんな揃って部屋を出た。