「友達。フレンドやフレンド、オーケー?」


日本語が通じないのに英語が通じる訳がない。

千歳狐は目を見開いたままじっと俺を見ている。何だか恥ずかしくなってきた。

長い耐久戦になりそやな、とその場に腰を下ろしてふと気が付く。


コイツ、逃げたり暴れたりするつもりはないんやな。


千歳狐はさっきからずっと同じ場所で固まっている。普通なら急に見知らぬ所へ連れてこられたら周りが全員敵に見えるはずなのに。

傍には布団もあるし朝飯の膳もある。俺に向かって投げつければ、 逃げたり反撃したりする隙なんていくらでも作れるはずだ。

試しに手を差し出した。

そいつは僅かに身を固くしたがやはり動かない。ただじっと驚きと困惑の表情で俺を伺っている。


もしかしてこいつ……。


伸ばした手でそのままそいつの二の腕を掴んた。

ハッと息を飲む声が聞こえた。


「もしかしてお前……自分のことが怖いんか?」


目を覗き込む。酷く怯えた瞳だった。


「自分の力が、怖いんか?」


もしかして昨日もそうだったのか?

俺に脅えているように見えたけれど、本当は自分自身に怯えていたのだとしたら。自分の力で人を傷付けることに怯えていたのだとしたら。


千歳狐の手首を握った。