「────嘘やろ、あいつ日本語すら喋れんの!?」
次の日。今日は友人達と川上でサワガニをとる約束をしていたので、靴を履き替え出かけようとしていたところでオヤジに捕まった。
有無を言わさずオヤジの部屋に引きずり込まれて今に至る。
「千歳狐は念話ができる妖やから、言語は必要ないんや。でもこの里で暮らしていくなら、学んどかなアカンやろ」
「でも何でその指南役が俺やねん! 権禰宜とか巫女助勤とか……手空いてる暇な奴に任せぇや!」
「今一番暇なんはお前やろが」
別に俺だって暇なわけじゃない。
夏休みの宿題だってあるし、終日ガキどもが「信乃ちゃんあそぼ〜」「信乃にぃ遊んで〜」と押しかけてくる。オヤジだって雑用はすぐ俺に押付けてくるくせに、暇だと思われているのは心外だ。
「とにかく今日からお前はあいつに言葉を教えたれ。ほんで、里の子供らとも仲良くなれるように手引きしたり」
「いやいやいや、急に暴れ出すような奴と誰がつるみたがるん」
「次期頭領ともあろうお前が何を言いよるか!」
せっかく痛みが引いたたんこぶをまた殴られた。
脳天を抑えながらクソォ、とオヤジを睨みつける。
「ええか信乃、頭領いうんは……」
「"全ての生き物を平等に導く存在"やろ! 耳タコやっちゅーの!」
大きなため息をついて立ち上がった。