「その犯人があの坊主や。九尾の尾っぽとあの強さからして、間違いなく千歳狐やな。最近千歳狐が誕生した話は聞かんから、おそらく160年前くらいに攫われた白狐一族の天狐の子供や」
騒ぎを聞きつけたオヤジたちが慌てて母屋から駆けつけてきて、気絶した俺は無事回収された。
治療してくれた巫女頭が「あんな所に隠れてる信乃さんが悪いんやで」と擦りむいた膝へ雑に消毒液をかける。
いでぇ!と悲鳴をあげて抗議した。
白狐一族から千歳狐が生まれた話は母親から聞かされたことがある。
千歳狐は空狐────千歳以上生きた妖狐同士が子をなせば、その子が千歳狐となって生まれる。
千歳狐が生まれるということは妖狐一族にとって非常に喜ばしいことで、その当時は一年近く宴が行われたらしい。
しかし人の世が戦国の乱世になり、その戦火は妖の世界にも広がった。一族同士の里の奪い合いが頻発した。
そして戦の混乱に乗じて黒狐一族の野狐が天狐2匹を殺害、その子供である千歳狐を拐った。拐った動機は千歳狐の戦力を自分の一族に引き入れたかったかららしい。
「引き入れたかったくせに、ずっと地下牢に閉じ込めてたんか? 何やそれ」
包帯を巻こうとする巫女頭の手から逃げて傷口を舐めた。