家具もないただ広いだけのその部屋の真ん中に布団が一組敷いてあった。その上に横たわる影がある。真っ暗な部屋の中で輝くような白に目が行った。

吸い寄せられるように足を踏み入れる。

布団に横たわるのは自分と同い歳くらいの少年だった。と言うのも妖狐は長寿なので、同じ歳くらいに見えて百歳くらいは差があったりする。

暗闇の中で見えたのは彼の白髪と白い獣耳だった。真珠のように光を集めて輝いている。


「白狐一族か?」


白髪を持つ妖狐と言えば白狐一族だ。

傍にしゃがみこんだその時、布団からはみ出した肩が黒く汚れているのに気がついた。

不思議に思いながら布団をめくると、少年の上裸の体が現れる。息を飲んだ。


「なんやこれ……」


少年の皮膚は健康的な白肌ではなく、刺青のような黒い墨で身体中に文字が刻まれていた。よく見るとそれは呪詞だった。少年の身体には呪印が刻まれている。

少年の閉じられた瞼が僅かに震えた。やがてゆっくりと目が開きぼんやりと天井を見上げる。


「おいお前、大丈夫か? その身体どないしてん」


少年の顔を覗き込む。次の瞬間、少年は毛を逆立てて布団から飛び退いた。飛び退くと同時に布団が落ちて白い尾っぽが立ち上がる。

くせで尾っぽの数を数えた。見間違いじゃなければ九尾ある。