「────んぁ?」
目が覚めると辺りは暗闇に包まれていた。オヤジから逃げるために屋敷の離れに隠れていたはずが、いつの間にか眠っていたらしい。
隠れていた屏風の裏からのそのそと這い出た。締め切られた障子から月明かりが差し込んでいる。
くぅと腹が鳴って、「そろそろ戻るか」と一つ伸びをした。
オヤジ、怒るかなぁ。顔出した時に出来上がってたら説教も短く済むんやけどな。
頭をガシガシかきながら軋む廊下を進む。進んでいると鼻は普段とは違う匂いを嗅ぎ分けた。知らない狐の匂いだ。
他の一族の奴が遊びに来とるんか?
それにしてもこの匂いは嗅いだことがない。黒狐も赤狐も一族によって匂いの色があるけれど、こんな匂いは初めてだ。
スンスンと鼻を鳴らしながら廊下を突き進む。どうやら匂いの元は離れにあるらしい。
離れの一番奥の部屋の前まで来た。
部屋の前で大の字に寝転がっている神職が二匹いる。手には空いた酒瓶を握っていて気持ち良さそうに鼻ちょうちんを作っていた。
おおかたサボりがてら酒を飲んでそのまま潰れたのだろう。
「なんじゃこいつら。オヤジに言いつけたろ」
寝転がる神職たちを蹴飛ばして隅に寄せ、部屋の襖に手をかけた。