瓏との出会いは六年前の、ある暑い夏の日のことだった。
「しーのー! ビッグニュース!」
「遅いわお前! 昼飯食ったらすぐ集合言うたやろ」
その日は朝から友人たちと遊んでいて、一度昼飯を挟んだ後に川へ行く約束をしていた。
「それどころじゃないって! 頭領もうすぐ帰ってくるらしい!」
俺は十歳で、神修は少し前に夏休みに入り、俺は信田妻一族の里へ帰ってきていた。
妖一族の頭領は宮司も兼任しており、宮司は人の世界と同様に神託で選ばれる。けれど血の気の多い奴らが多い妖一族は絶えずその座をめぐって争いが起きていた。
だから神修で力を学ぶ妖はその社の頭領になる事が決まっている妖か、宮司候補の子供だけ。
自分は五歳の時に神託を得て次の宮司に選ばれていたため、同い年の信田妻の妖狐たちは誰一人として神修へ進学していない。
里に帰省できる長期休暇の間は友人と遊べる貴重な時間だった。
父親で頭領で信田妻が管轄する社の神職でもあるオヤジは、自分が帰省する度に"将来のためや"と称して神主の仕事を手伝わせようとしてくる。
けれど二週間ほど前から他の神職たちを引連れて祓除の遠征に出ていたおかげでのびのびと過すことができていたので、オヤジが帰ってくることは俺にとっては死活問題だった。
「まじかよ!? いつ戻るって?」
「明後日には帰るって手紙が一昨日の日付で今日届いたらしい」
友人のひとりが顎に手を当てながらそう言う。