火種は思ったよりもすぐそばにあった。小学生の時に林間学校で行ったキャンプファイヤーのような大きな青い火柱が上がっている。けれどまだ周りには燃え広がっていない。

駆け寄りながら恵衣くんが「鎮火祝詞!」と叫んで柏手を打つ。皆すかさず手を打った。


高天原(たかまのはら)神留座(かんづまりましま)す 皇親(すめむつ)神漏岐(かむろぎ)神呂美之命(かむろみのみこと)(もち)て……」


一文目から声が揃った。みんなの言霊が絡み合う。荒ぶる魂を鎮めるように、冴え渡った音が火柱を包み込む。


鎮めろ、鎮めろ……ッ!


徐々に勢いが弱まっていく。火柱は焚火程度の大きさになり、やがてジュワッと音を立てて消えた。

誰かが安堵の息を吐いた。釣られるように肩の力が抜ける。

でも駄目だ、まだ安心できない。確かにこの火種は鎮火できたけれど、妖狐は怪し火を自在に操る。もしかしたらまた直ぐに火を放つかもしれない。

なら、一体どうすれば。


「み、見つけたァッ!」


当然泰紀くんがそう叫んだ。

みんな驚いて振り向くと泰紀くんはどこか一点を指さしている。その指先を辿った先に大きなクスノキが立っている。

クスノキの太い枝に佇む白い後ろ姿に目を瞠った。


「瓏ッ!」


誰よりも先に信乃くんが飛び出した。皆の制止をすり抜けてクスノキに向かう。


「ホンットにお前らは、人の言う事聞かないねッ……!」


焦りと怒りで苦い顔をした聖仁さんがそう声を上げてその背中を追いかけ走り出す。