去年の二学期に寮で応声虫に寄生される事件が起きた時、聖仁さんは誰よりも必死になって治療方法を探していた。

もちろん倒れた友達や後輩のためでもあるけれど、一番は瑞祥さんのためだった。寝る間も惜しんで倒れそうになるまで必死になって守ろうとした女の子だ。

そんな人をわざわざ危険な場所に連れていこうとするはずがない。

瑞祥さんが酷い火傷を負うことになる、という未来は伝えていない。でも先見の明を使った後の私の態度から、何かを感じとったんだろう。

今も走りながら、ずっと瑞祥さんの事を気にかけている。


もちろん私たちのことを思って言ってくれているのもあるだろう。同じ高校二年生とはいえ相手は力の制御を失った最強の妖。私たちに敵うはずがない。


「そんなん……そんなん俺が一番分かっとるわッ! 瓏は弟みたいな奴やけど、俺はあいつに一回も敵ったことがない! 俺の力じゃ止められへんのは、よう分かっとる……ッ」


ギッと歯を食いしばりながらそう零す。悔しくて悔しくてたまらないという気持ちが痛いほど伝わってくる。

私も皆も、瓏くんを助けたい気持ちは同じだ。


でも今は、聖仁さんの言葉が正しい。自分でも敵わないと自覚しているなら尚更避難した方がいい。

皆苦しげに視線を提げたその時。


「あのさぁ……」


聖仁さんの隣を走っていた瑞祥さんがそろ〜っと手を挙げた。