「手、貸して」


鬼市くんが走りながらそう言って自分の手を差し出す。不思議に思いながらもそっと伸ばしたその時、差し出したその手を前からガッと掴まれた。

驚いて顔を向けると、前を走る恵衣くんが後ろ手で私の手を掴んでいる。振り向くと鬼市くんが驚いた顔で私達を見ていた。


「え、恵衣くん……っ」

「いいから黙って走れ」


強く手を引かれて、転びそうになりながら足を動かす。強く手を握られた。

温かい。温かくて力強い。安心するぬくもりだ。


恵衣くんは間違いなくそこにいて、他のみんなも隣にいる。あれは単なる悪い未来で、私たちはその未来を変えるために走っている。

あんなことにはならないし、させない。


恐る恐る握り返すと、いっそう強く握ってくれる。ふふ、と小さく笑うと握りつぶされそうな勢いに変わったので慌てて口を噤んだ。

また「馬鹿なのかお前」と言われそうなので、お礼は言わなかった。