「巫寿、大丈夫か? キツかったらおぶろうか」
最後尾を俯きがちに走っていると、心配した鬼市くんがスピードを緩めて私の隣に並んだ。
大丈夫だよ、と笑って首を振るけれど上手く笑えている自信が無い。拳を握る力を緩めれば、間違いなく手はガタガタと震えているはずだ。
気持ちを切り替えたはずなのに、先見の明でみた景色が脳裏から離れない。
先見の明を使うことの代償がやっとわかった。
授力稽古の時、誉さんは「先見の明には代償がある」と私に話した。それは凄く辛くて苦しいものだと。
曖昧な言い方だったし、今からビクビクしても仕方ないと思って気に留めないようにしていたけれどこういうことだったんだ。
先見の明の本質は危機回避、私たちが見るのは危機が迫っている未来。つまり悪い事が起きる未来だ。
あの光景を恐ろしいなんて言葉だけでは表現出来ない。
青い炎に包まれた最後を思い出す。本当にすぐそばで死を感じた。
あの未来を見たからこそ帰られる未来があるのは分かっているけれど、すぐに笑えるような気分のいいものじゃない。
「手、青白い」
「あ……」
鬼市くんに指摘されてきつく握りすぎていた手が白くなっているのに気がつく。少し力を緩めれば、指先が氷のように冷たくなっている。