「まずい、暴走する……!」


鬼市くんが「隠れろ!」と怒鳴った。皆は頬をぶたれたようにハッと我に返って走り出す。そばにいた恵衣くんが私の手を引いた。傍にあった太い木の幹に押し付けられる。覆い被さるように恵衣くんが私に身を寄せた。


「瑞祥ッ……!」


身を切るような聖仁さんの叫び声が聞こえた次の瞬間、轟音と共に激しい熱が身体中の穴から伝わってくる。咄嗟に口元を袖で抑えた。鼻から入ってくる空気は喉を焼き、瞼を閉じていても目が熱い。

熱から逃れるように身じろげば、恵衣くんは痛いほど強く私を幹に押し付けて「動くなッ!」と怒鳴りつける。

返事どころか息も上手くできず、ただ体を縮こまらせて恵衣くんの影に隠れた。

炎が上がる音が止めば、木々が燃えて弾ける音の合間に誰かの叫び声が聞こえた。絶望と悲しみに染まった叫び声だった。


「瑞祥……! 目を覚まして瑞祥!!」


聖仁さんの声がする。今にも泣き出しそうに名前を呼んでいる。

心臓が嫌な音を立てた。

火の手が弱まったのを確認した恵衣くんが私の体を離した。勢いよく飛び出すと、木々が焦げた煙の奥で地面に倒れ込む影を見つける。

うつ伏せになって倒れ込んでいる。白衣の背中は先ほどの火炎で焼けたのか煤に塗れて大きく焼け焦げている。そこから見えた赤く爛れる肌に言葉を失った。一つに結い上げられた長く綺麗な髪も焼け落ちたのかまばらな長さで肩に流れる。意識を失った顔は青白い。


「ああそんなっ、なんで俺はまた……ッ!」


その傍に膝をつく聖仁さんは今にも泣き出しそうな顔で瑞祥さんの頬を摩る。