進むにつれ、膝をつきたくなるような重圧を両肩に感じた。圧倒的存在の前に気圧される感覚と似ている。これは以前にも経験したことがある。瓏くんが千歳狐に変化(へんげ)したときだ。

歯を食いしばりながら進む。顔中に激しい熱を感じる。鎮火祝詞の奏上が少し前から間に合わなくなってきた。


「おいお前! あの千歳狐を見つけたとして、お前はあいつの体に呪印を入れることができるのか!?」


恵衣くんが叫ぶように尋ねた。


「正直方法は知ってるって程度やッ! 毎回入れ直す時は頭領がやってたし、前も禄輪禰宜がやってくれた。俺がやって成功するとは思えんけど、それ以外に方法ないやろ!」


ち、と舌打ちの音が聞こえる。でもそれ以上は何も言い返さないので、恵衣くんもそれ以外方法がないと判断したらしい。


「巫寿ちゃんの鼓舞の明で力を底上げしたら勝率上がるんじゃない!?」

「上がるかッ! 葛飾北斎の富嶽三十六景を手本なしに一発描きするんと同じくらいの難易度なんやぞッ!? ……でも一応頼む巫寿!」


意味は無いかもしれないけれど出来ることは何でもやっておくべきだ。

分かった、と叫んで答える。


草木が燃える白い煙の中に九つの青い火の玉がぼんやりと浮かんでいるのが見えた。


「見つけた! おいこのド阿呆狐ッ! お前は一体何をやっとんねん……瓏!」