「これじゃ思うように前に進めないッ」

「このままじゃ僕らも丸焦げだよ!」


嘉正くんと来光くんがそう叫ぶ。

うわっと後方で悲鳴が上がった。瑞祥さんの傍で火柱があがる。咄嗟に聖仁さんが腕を引いて抱きとめた。

パニックが伝染し始めたその時、火炎を貫くキレのいい柏手が二度響いた。


高天原(たかまのはら)神留座(かんづまりましま)す 皇親(すめむつ)神漏岐(かむろぎ)神呂美之命(かむろみのみこと)(もち)て 皇御孫命(すめみまのみこと)をば 豊葦原(とよあしはら)水穂(みずほ)の国を安国(やすくに)(たひら)けく所知食(しろしめせ)と 天下(あめのした)所寄奉(よさしまつり)(とき)事奉仍(ことよさしまつり)し 天津祝詞(あまつのりと)太祝詞(ふとのりと)(こと)(もち)(まを)さく……」


太陽も風も海も山もみんなが味方しているような、祝福そのもののような柔らかく暖かい優しい声。振り返ると背筋をのばして凛と立つ恵衣くんが静かに目を閉じて祝詞を奏上していた。

直ぐにみんなの顔つきが変わった。次の瞬間には複数の柏手の音が揃う。もちろん私も手を合わせた。

怪し火を沈めるには────鎮火祝詞(ひしずめのりと)。私が一番得意な祝詞だ。


バラバラだった全員の声が徐々に揃い始める。やがてひとつの声になると、言霊は恵みの雨のように怪し火に降り注いだ。

シュッと音を立てて少しずつ火は弱まっていく。道が開けた。


「走れッ!」


信乃くんの合図で、みんなは一斉に駆け出した。