それを理解すると割と直ぐに落ち着くことが出来た。もう一度深呼吸をイメージする。

先見の明は願って使える力じゃない。その本質は危機回避だから、力が使える時はつまり周りの人間に危険が迫っている時だ。だから先見の明の保有者は一秒でも長く一秒でも正確に未来を記憶して、危機回避に繋げなければいけない。


今こそ誉さんとの練習の成果を試す時だ。


強ばっていた全身の力を抜いた。

まずは意識と感覚を繋げること。今の私は視覚だけが共有されていて、例えるなら映画を見ているような状態だ。意識はあるけれど何も出来ない。その状態から脱却する。

そのためには抗わないこと、感情を高ぶらせないこと。走っている状態なら、自分も走ろう意識する。走る感覚に走る意識を重ねる必要がある。

そして感情を高ぶらせないこと、これが一番重要らしい。あくまでそれは未来の映像だから、その未来において第三者である私が「怖い」だとか「嫌だ」とか強い感情を抱けば先見の明は途切れてしまうらしい。

思い返せば先見の明が途切れる瞬間、いつも私は恐怖を感じていた気がする。


落ち着いて、大丈夫。私ならできる。


心の中でそう何度も繰り返せば、徐々に手のひらを握る感覚や足の裏が土をふむ感覚がが鮮明に伝わってくる。

次の瞬間、ぽちゃんと水の中に飛び込むような感じがして全身の感覚がクリアになった。