借り物競争に出る生徒たちの待機列に混じって座る。


「ねぇ泰紀、あんまり薫先生のこと責めないで」


隣に座っていた瓏くんが唐突にそう言った。「何だよ突然」と怪訝な顔をする。


「俺の今日の任務、薫先生が変わってくれた。明け方までかけて、全部終わらせてくれたから」

「え! そうなのか!?」

「今朝、頭領からそう連絡きた」


マジかよ、と少し申し訳なさそうな顔をした泰紀くんは困ったように頬をかく。

だから昨日はホームルームもできないほど仕事が立て込んでいたんだ。

泰紀くんは「後で謝るかぁ」と唇を尖らせた。


「薫先生、凄くいい先生。俺、薫先生好き」

「まぁ悪い人ではないよな。基本的には俺らのことよく考えてくれるし」


しみじみとそう呟いた泰紀くんに深く頷いた。

二学期にお兄ちゃんから神修へ戻るな、と言われた時も薫先生は私がどうしたいのかを聞き出そうとしてくれて、私が選んだ道に進めるよう協力すると約束してくれた。

春休みの間私の昇階位試験の結果を伏せていたのも、私が気兼ねなく休みを楽しめるためにそうしてくれたみたいだし、日々の言動から薫先生が生徒思いなのはよく分かる。


「たまーに青春にかこつけて、めちゃくちゃな事させてくるけどな!」

「あはは、確かに」


何かにつけて「もっと青春しなよ」「思い出作りなよ」と言いながら、その後私達に無茶な事をさせようとしてくる。

去年の二学期奉納祭で漫才をさせられそうになったのがいい例だろう。