私の体が温まった頃にはかなり日が傾き、鎮守の森の影が濃くなっていた。

持ってきた白衣(はくえ)と白袴に着替えた私は禄輪さんの指示の元、本殿の祭壇を整えていく。

今から一体何が始まるんだろう。


祭壇の前に座るように促されて腰を下ろす。


「今から行うのは、巫寿の中の呪を言祝ぎに転じさせる幸魂(さきたま)修行だ」

「呪を言祝ぎに……? そんな事ができるんですか?」


禄輪さんはひとつ頷く。


「場合によってはできない者もいるが、生まれながらに言祝ぎを持ち合わせていればな。非常に簡単だ、誰でもできる。誰にでもできるが誰もやらない」


簡単に出来るのに誰もやらない?

なぞかけみたいな言い方に首を捻る。


「例えば粘土で猫を作ったとする。その後同じ粘土で蛇を作る場合、巫寿ならどうする」


妙な例え話にいっそう首を傾げるも、「いいから考えてみろ」と促され顎に手を当てた。

猫から犬なら耳としっぽの形を変えれば何とかなりそうだけれど猫から蛇となるとこう……一度ぐしゃっと潰してくるくる丸めてから作り直す方が早そうだ。


「この修行は今巫寿が頭の中で考えたことと同じ事が、体の中で起きるということだ」


数秒の沈黙の後、自分の顔から血の気が引いたのが分かった。