「やだなぁ。別に俺たちは悪いことをしている訳じゃないんだから、そう怖がらないでよ」

「でも……この前だってあんな事(・・・・)になって……」

「仕方がなかったんだ。我々には必要な事だったんだから」


いいかい?

そう言った男がゆらりと暗闇の中から現れた。子供の前に立つ。片目を糸のように細める男の笑みは氷のように冷たい。


「俺のしていることは間違っていない。むしろ良い事だ、結末は間違いなくみんなが幸せになる。だから君も間違っていない。君は何も気にすることなく俺の頼みを聞いてくれるだけでいい。そうすれば俺も助かり、妹さんも助かる。全てが丸く収まるというわけだよ」


男が子供の頬に触れた。女がその後ろで不気味な笑みを浮かべている。


「頼んだよ、────」


名前を呼ばれた。自分の名前を呼ぶ声は確かに言祝ぎの音をしている。なのに彼はどうして、闇に染まってしまったのか。

震える唇をかみ締めて、制服の裾をキツく握りしめた。