この世の境目、あの世に一番近いその場所では闇を一層濃く映す。

幽世と現世を行き来するために多くの妖たちで賑わう本通りから一本外れた裏路地は、 建物の深い影が落ち、ひと気もなく湿っぽい空気が漂っている。

その影の中に佇む子供が一人。松葉色の制服は影で黒く染っている。


「それで、心は決まったかな?」


闇の奥に溶け込むように男がもう一人立っている。男は人のいい笑みを浮かべたが、鬼脈の闇がそれをかき消す。


「あんた耳ついてる? 聞かれた質問に答えんかいな」


すぐ側の暗闇から女の声が響いた。


「こらこら、脅しちゃダメだよ。この子は俺たちの大切な同士なんだから」

「お優しいなぁ……でもそうやっていつまでも優しゅうするから、この子がグズグズするんとちゃいます?」


暗闇から手が伸びる。雪のように白い手だ。

白い手は恐怖に身を硬くして佇む一人の子供の首元へ伸びた。赤く塗られた鋭い爪が細い首を柔く刺す。

ハッと詰まった息が漏らした。


「そうだね。確かにそろそろ答えを聞かせてもらわないと、次の予定が詰まっているからなぁ」


男は首元を掴む手をやんわりと引き剥がすと、血のにじむ皮膚をそっと撫でる。黄金色の光の粒を発したそこは、傷跡どころか血の跡さえを残さない。


「こういうのはあまり好きじゃないんだけど────分かるよね? 妹さんの命は君の返答次第というわけだ」


子供の瞳に映る恐怖の色が瞬く間に濃くなった。