「仕方ないだろ。他に今からどうにか出来そうな条件なんてないんだから。俺だって不本意だけど仕方なく────」

「え……え? ちょっと待って。今の話の流れからすると私と恵衣くんが……?」


混乱しながらそう聞き返せば恵衣くんは耳を真っ赤にして眉を釣りあげた。


「事情知ってんの俺と薫先生だけだろうがッ! 薫先生がお前のこと嫁に貰ったら犯罪者になるぞ!」


確かにそれはそうなんだけど、私と恵衣くんが……け、結婚って!

次の瞬間、ブハッと盛大に吹き出した薫先生がお腹を抱えてケタケタ笑いだした。


「はぁ、面白すぎるんだけど二人とも。結婚は冗談だよ、話跳躍しすぎ」


目尻の涙を拭いながら薫先生はそう言う。

恵衣くんに視線を向けてヒッと息を飲む。トマトみたいに顔を真っ赤にした恵衣くんは、鬼みたいな顔で薫先生を睨んでいた。


「審神者って暗黙の了解で断れないことになってるけど、断る選択肢だってちゃんとある。そう不安にならなくてもいいよ」


薫先生はグリグリと私の頭を撫でた。

な、なんだ。別に断ることもできるんだ。でもそうならそうと先に言ってほしい。本当にびっくりした……。


「さて、話すことも話したし内緒話はこれで終わりね。さっきグループトークに嘉正からメッセージきてたよ。部屋でトランプやろうって。若いねぇ、センセーは限界だから先寝るよ」


一つ伸びをした薫先生は手をひらひらさせて歩き出す。食堂の出入口でピタリと足を止めて振り返った。