こめかみにビキビキと血管を浮かび上がらせた恵衣くんはフーッと熱の籠った息を吐いて軽く頭を振った。
「……それで次期審神者候補者の話が出て、巫寿の名前が挙がったんだよ」
「で、でもなんで? 私まだこっちに来て一年ちょっとだし、そもそも学生だし……」
そうだ、私はまだ神修へ来て一年と少ししか経っていない。知識も経験も同級生たちに比べると遥に劣っているし、私を選ぶ理由がわからない。
「審神者になるための条件は揃ってるから選ばれたんだろ」
「審神者の条件って確か……」
言祝ぎが多いこと。二十歳の時点で一級以上の階位であること。未婚女性であること。先見の明があること。
誉さんからそう教えてもらった。
「これがまた、綺麗に当てはまってるんだよなぁ」
薫先生は天を仰いだ。私も思わず頭を抱える。
本当に全部あてはまってる。どうしてあの時気が付かなかったんだろう。
「あ、あのでも……誉さんは家系も関係するって。禄輪さんは両親は本庁の人だったって言ってたし、どこかのお社に仕えていたなんて聞いたことないです」
「あれ、兄貴から教えてもらってないの?」
「え?」
目を瞬かせる。
「……なるほど、祝寿は教えてないのか。巫寿のご両親、実家はかなり有名な社だよ」
「え……? そうなんですか!?」
お兄ちゃんからそんな話は聞いたことがない。小さい頃お兄ちゃんに"私たちに親戚や従兄弟はいないのか"と聞いたことがあるけれど、悲しい顔で「いない」と答えていた。
だから両親は共に身寄りがないのだと思っていたんだけれど……。
質問しようと口を開きかけて、詳しくは兄貴から聞きなと薫先生は話を終わらせた。
さっきから衝撃的事実の連発で開いた口が塞がらない。