薫先生に先導されて連れてこられたのは旅館の食堂だ。営業時間は終わっているので緑の非常灯だけが灯っている。食堂の方から何かの機械が低く唸る音が響いてきてちょっと不気味だった。
「薫先生」
暗闇の中から声が聞こえた。誰かが立ち上がったのがうっすら見える。
「遅い。何してたんですか」
「ごめんごめん、可愛い生徒たちが青春を謳歌する姿を眺めてたら遅くなっちゃった」
「なんすかそれ」
スリッパが床と擦れる音がして現れたのは館内着の浴衣に着替えた恵衣くんだった。
「薫先生?」
「ん、一旦座ろうか。恵衣、扉閉めなくていいけど念の為周り見張らせといて」
ひとつ頷いた恵衣くんは懐から袱紗を取り出すと、人型の形代を三枚取りだした。フッと息を吹きかけると、音を立てて膨らんだ形代が扉と窓の前に立つ。
口笛を吹いた薫先生が「流石だねぇ」と笑う。
「さて、じゃあ早速だけど本題に入ろうか」
恵衣くんが椅子に座ったので慌てて私も隣に腰を下ろす。薫先生は腕を組みテーブルに少し腰かける。
「順を追って話すなら、まずは審神者の件からだね」
審神者の件?
思いもしなかった単語に目を瞬かせた。