かぽーん、と風呂桶の転がる音が響く高い天井を見上げてふはっと息を吐いた。白濁したお湯をすくい上げて肩にかけると、ほんわりと身体が温まる。
「おーい、巫寿! まだそっちいる〜?」
高い壁を挟んだ反対側から名前を呼ばれた。周りに人はいないので、「まだ入ってるよ!」と叫んで答える。
「最高だなこれ! 貸切状態じゃん!」
「馬鹿叫ぶな!」
「うわ、鬼市の腹筋すご!」
「瓏と来光はひょろひょろやな」
あっちは楽しそう。
女子は私一人だけなので仕方ないけれど、賑やかな男湯が少し羨ましい。
「巫寿、上がったら卓球台集合ね」
「薫先生一番ノリノリだし!」
「当たり前でしょ? 大人たるもの楽しむ時は全力で楽しむの」
「とか言って〜」
楽しそうな声にくすくす笑いながら「はーい」と答えた。
薫先生に無理やり連れてこられた任務を何とかこなしたものの、帰りの車を逃してしまいどうしたものかと立ち往生していた所で薫先生に連れてこられたのは山の麓にあった小さな旅館だった。
深夜に急に訪ねてきた大人一人と子供複数の団体客を不審に思うこともなく、あっさり部屋へ案内してくれた女将さん。なんなら去り際に「お勤めご苦労様です」とまで言われた。