「わぁ……本当に川がある」
白い着物に着替えた私は、禄輪さんから言われた通りに鎮守の森を少し歩くと小さな小川の前に出た。
さらさらと耳に心地よい水の音が聞こえ、自然と背筋が伸びる程度にほんのりと肌寒い。空気が澄み渡っている証拠だ。
そっと川を覗き込んだ。川底に積み重なった丸い石が水流で流されているのがよく見えた。その石の隙間から緑の草がゆらゆらと揺れて、小魚が優雅に間を通り抜ける。
鎮守の森の木々の隙間から差し込む光りが川面に集まり花緑青色に輝いていた。
上流に近いからかとても水が透き通っている。
ちょんと指先を浸すとあまりの冷たさに全身がぶるりと震えた。
「冷た……!」
ひぃ、と苦笑いを浮べる。
この中に入るのか、とため息がつきたくなったけれどどれもこれも自分のため。
よしと気合いを入れ直して川辺に雪駄を並べると左足からそっと中へ入った。
川はそんなに深くはなく、両足を浸けても膝下までしか水位がなかった。バシャバシャと水飛沫を上げながら真ん中まで進み、意を決してえいやっと座り込む。
正座をするとへそ下までしっかりと浸かって、やはり耐えきれずにぶるりと震える。
「は、早く済ませて帰る……!」
そう言ってガチガチ音を立てる歯を食いしばると背筋を伸ばして深く息を吐いた。