まるでお化け屋敷のように次々現れる残穢にみんなが悲鳴をあげる。
「巫寿ちゃん! そっちにクッソ気持ち悪いの走ってった!」
少し先の方で修祓していた来光くんがそう叫んだ。え、何?と聞き返すよりも先に落ち葉を踏む四本足の音が聞こえる。
慌てて辺りを見渡した。暗闇でよく見えない。みんなの叫び声で足音の位置が特定できない。
焦る気持ちで振り向いたその時、木の影から太い前足が二本飛び出してきたのが見えた。僅かな月明かりでその足が虎のような縞模様をしているのに気が付く。
草が揺れて現れる。赤ら顔に大きな口、のっぺりした鼻は猿の顔だ。
ヒッと息を飲んだ。
確かにこれはかなり気持ち悪いかも……!
とりあえず初めて見る妖だから祓詞!
胸の前で手を合わせようとしたその時。
「待った巫寿、そいつはまだ授業で教えてないから駄目」
肩を引かれて私が顔を上げるよりも先に薫先生が前に出る。私が叫んだのと妖が薫先生に飛びかかったのは同時だった。
「薫先生危ない……ッ!」
ヒョォという不気味な鳴き声が辺り一面に響き渡り思わず目を閉じた。
「子供たちの教材のために、ちょっと協力してね」
呑気な声が聞こえて「……え?」と薄目を開ける。
ヒョォヒョォと鳴き喚くあの不気味な妖にヘッドロックを決めた薫先生が「君、活きいいね」と笑っていた。