「……なんッで俺も!!」
恵衣くんがここまで怒り狂う姿は久しぶりに見た気がする。
そして怒り狂いながらも目の前の怪し火はしっかり火鎮祝詞で修祓している辺りが流石だ。
「お、いいよ恵衣。今のお手本みたいに上手かった。その調子その調子」
高い木の右に座って足を組み、文字通り高みの見物を決め込んでいる薫先生。
「うわぁッ! 薫先生助けてッ!」
「いてっ、痛ぇ!!」
野生のすねこすりにまとわりつかれた慶賀くんと泰紀くんが立ち上がる度に転ばされている。
すねこすりは人の足に纏わりついてすっ転ばせる幽世生物だ。
「あはは、頑張れ頑張れ。あ、でもすねこすりは修祓対象外だから祓っちゃ駄目だよ、追い払うだけね」
薫先生の楽しそうな声と二人の悲鳴が深い森の奥に響いた。
『君らも行こうか、任務』という薫先生の発言に一目散に逃げ出した私たちだけれど、結局先生が使役する妖狐に捕まってこうして深い森に連れてこられた。
湿った赤土と落ち葉の腐った匂いが濃い。生い茂る木々が月明かりを遮り辺り一面は真っ暗闇だった。
そういう深い暗闇こそ、悪いものが吹き溜まる。