恣冀という妖は間違いなく志ようさんが使役した十二神使だ。
そして私が見たあの記憶は志ようさんが見ていた景色。審神者としてかむくらの社で恣冀と過ごしていた時の景色だ。
でも一体どうして志ようさんの記憶を私が知っていたんだろう。それにあの記憶は、私から見た景色ではなく志ようさんが見た景色だった。
絶対に私が知るはずのない記憶だ。
恣冀と初めてあった時もそうだった。あの胸が引き裂かれるような苦しさも私の知らない感情。
私と志ようさんと恣冀には、一体どういう関係があるんだろう。
「ちょっ巫寿!?」
「うわぁッ危ねぇ!」
そんな悲鳴混じりの声が聞こえると同時に突如両脇から腕を掴まれた。
え?と顔を上げると目の前には庭園の小川が流れていて、浮いた右足は川の上に差し出されている。
「何やってんだよ!? たしかに最近暑いけど制服のまま飛び込むつもりか!?」
「やっぱり何か悩んでるんだろ!? 俺らが聞くから早まるなッ!」
そんな声に左右を確認すると焦った顔の泰紀くんと慶賀くんが私の両脇を掴んでいる。
「え? あっ、ごめん! ぼーっとしてた……!」
慌てて数歩後ろに下がると二人は安心したように深く息を吐いた。
「二人ともナイスランだったよ」
「間一髪やったな巫寿」
嘉正くんたちがゾロゾロと歩いてくる。