「────白虎」


名前を呼ぶ。

前から強い風が吹き付けたように身体中に衝撃が走った。



『馬鹿もの! 早く降りなさいッ、白虎!』
屋根を見上げて誰かを叱っている景色。

『白虎はどんな味が好きなのかしら。とりあえず今日は、私の故郷の味にしましょうか』
台所に立って鼻歌を歌いながら包丁を握る景色。

『とうとう白虎にも、私の秘密の場所がばれてしまったか』
木漏れ日が差す暖かい部屋の景色。


知らないはずの景色が次々と頭の中に流れ込む。その隣には必ずあの白髪の妖がいた。


『我が御名のもと。下れ、白虎』
それは二人の間で交わされた結び。



白髪の妖、十二神使。

彼の名前は────白虎の恣冀(しき)